大江戸温泉物語

先日、中学時代の悪友たちと新橋で再開した。連中もすでに齢53であります。(社長島耕作はいないが…それぞれいっぱしの役付じゃった)
          
会った瞬間、怖いおっさんの顔が少年時代の顔に変わったようで、言葉遣いもその当時のまま。「シンゴ」「ナオユキ」「ショージ」となり、即新橋のチカチカした闇に飲み込まれていった。まずは居酒屋で寄せ鍋をつつきながら1年ぶりに乾杯!つもる話がたくさんあり、話が止めどもなく続く。仕事の話など一切無い話が延々と。 この日ばかりは世相にうるさいそれがしも、昔の話と家族の話で盛り上がる。すでに孫がいるわしやまだ小学生前の子を持つ奴もいる。なんともアンバランスな連中である。もう二半時は過ぎた時分、誰からともなく「温泉につかりてえなあ」と言う声が上がった。ゆりかもめに乗ってすぐそこに大江戸温泉があることに気がつき、河岸を変えることにしゆりかもめに乗る。でも名前は大江戸温泉物語と「物語」が最後にくっついていた。
          
ま、何でもいいや入るべえということで入ってびっくり。もう8時過ぎじゃと言うのにおなご、それもお若いおなご衆が浴衣姿で江戸の風の町並みを闊歩しておる。これは風呂処ではないと「シンゴ」が吠えた。奴は野獣じゃ。
               
さて、通行手形なるリストバンドをもらい中へ。自分の好きな柄の浴衣に着替え町に繰り出す。とりあえず温泉へとばかり男風呂へ乱入。びっくりしたのは外国人が多いこと。さずが大江戸。その昔、江戸に来航したペリーはこの日本の銭湯に嫌悪感を持ったそうじゃが、この芋洗い状態の中にいる約2割が西洋人だと言うことは想像できなかったであろうとそれがしはつぶやくが誰も意に介さず。ナトリウム・塩化物強塩温泉じゃったが、肌がつるっとして良い感じであった。都会の露天もまあまあである。岩に似せたコンクリートで仕切られいるので、残念ながら夜景はみえんかったが、天空は良いぞ。
               
脱衣所で、大きな声の「お姉言葉」でしゃべっている男?がいた。やっぱりお台場、ikkoがいる都会の温泉は違うのう。半ば感心して聴いていたらその声は…。酔った勢いで温泉に入ったからか変身した「ナオユキ」じゃった。相手は知らん若者風。まあこれがきっかけで、お姉さん?方とまた風呂上がりの一杯になったが、これはまた盛り上がってのう。聞いてみれば皆普通のサラリーマン。気のあった連中と飲んでいる時にはお姉言葉で話すんじゃと。そういうもんかのうと思いつつ、結局わしらもお釜軍団になってしもうた。きっと前世はそうだたのかも。
           
とにかく飲んで、話して、あきたら温泉に浸かって、また飲んで、気がついたらもうとっくに次の日。ただ、事前に予約しておいたお陰で、他の入館者はどこで寝るか右往左往しているのを尻目にわしらは黒船キャビンなる寝床へいつでも行って寝ることが出来る寸法じゃったので、何やら勝ち誇った気分でまだひたすら飲み明かす。何を飲んで、何をこんなにたらふく食べたかわからんようになった時にお眠した。それがこの二段ベッド。
          
二段ベッドとはいえ個室状態で快適じゃった…が、丑の刻当たりで起こされた。イビキの凄い奴がいたんじゃ。われら三人びっくらこいて目を覚まし、そのイビキのもとを探ったが何にも言えない状態の若者じゃったのですごすご喫煙所に繰り出し一服。あ〜あ、楽しい気分がだいなしじゃあ〜とそれがしが叫んだ。だが、他の二人は冷静じゃ。そしてこう言った。「おめえのイビキよりましじゃ」と。その言葉に皆苦笑しまた寝床に入った。

気がついたらもう朝の七時。さて朝風呂じゃと思い、皆を起こそうと思ったがもぬけの殻。「先を越された!」即直行、あの塩分いっぱいの源泉掛け流し風呂へ。さっと浴衣を脱ぎ、かけ湯をして湯船に。
なんちゅうか、二日酔い状態のはずがこの塩分の濃い風呂につかると、何だか地肌から吸収されるのか、飲んだ翌日のみそ汁が飲みた〜い現象が薄れていくのを感じる。気持ち悪さが全く無くなっていた。

湯上がりに昨日会った外国人の親子がいて、バスタオルがあるのにどうして風呂場から出る時、日本人は小さいタオルで体を拭いているのか?と言うことを英語で聞いてきた。きっとフランス人だったのだろうか、アクセントがそんな風だったし、英語が巻き舌だったので、こっちも安心してジャパニーズ英語で応えてやった。「昔の日本。バスタオルない。濡れたままダメ。脱衣所濡れる。ここで拭く」と言ってやり方を教えた。次はゼスチャーでまず顔、肩、両腕、胸、脚、タオルを延ばして背中、そんで棒状になったタオルを股の下に入れて、前後にこすってけつの穴と袋を拭くと教えてやった。とっても喜んで「これは日本式か」というから「当然」といってやり、付け加えて「バッタ…メンオンリイ、ソー、インザワールドね」といったら親子して笑っていたんじゃな、これが。きっとあやつらは贅沢な部屋に泊まってたんじゃ、きっとこんなルームに。いいにゃ〜。
          
さて、風呂から出ると入口の横にある「片口屋」なる店でもう二人は向かい酒を飲んで朝飯を食らっていた。「ずいぶんじゃん!」と不平を言うと、シンゴがコップを出し、間髪入れずスーパードライを注いだ。その瞬間、奴らの手の内に入ってしまった。「やるのう、おぬしら」と心に思いながら朱に交わった。

とにかく愉快な一夜を過ごしお会計処へ。まあ何というか新橋の飲み分を入れて1万○千円で堪能できたんで、みなそれぞれ笑顔でまた来年の今日会おうぜ、と言って別れた。なんかとはなしにじーんと来た。「みんなあ、元気でいろや〜」と心でつぶやきながら。

大江戸温泉殺人事件 (ジョイ・ノベルス)

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